あれは3年前の夏、私が教材販売の営業の仕事をしていた時のことです。場所は、どこにでもある新興住宅地で、昼過ぎからお客様の家を順番に訪問させて頂いていました。

その住宅地は山の傾斜に沿って住宅の区画が段々になって立っていたので、宅地の端っこには、それぞれをつなぐ細い階段がありました。昼のうちにその階段を利用して順番にお宅を訪問している時に、奇妙なものを見つけてしまいました。

階段の半ば辺り、林の中にお墓がひとつ立っていたのです。そのお墓はわりと大きい墓石でしたが、囲いがなく、林の中でポツンとありました。
まだまだ明るい時間帯でしたが、宅地の端っこで片側が林になっていのもあって薄暗くて不気味な感じがします。今まで霊感なんて感じたこともないのですが、それでも恐がりな方なので、もうそこは通るのをやめようと思いました。

そ して日が落ち始めた夕方に、昼間のうちにお約束をしていたお宅に再訪問に伺いました。そこで商談が成立してお宅を出た時には、外はもう真っ暗でした。私は 車で迎えに来ているはずの同僚に携帯電話で電話を掛けました。そのまま電話で話をしながら同僚が待っている場所に向かおうとしていました。

同僚は1段下の宅地で待っているということでした。一日中歩いたり話したり、もうすっかり疲れていたので、ぐるっと回り道をして街灯のある道路を歩いて降りていくのが面倒でした。

ふと見る先にあるのは、街灯に照らされて浮かび上がる例のお墓がある階段。私は階段の方に歩いて行きました。下をのぞくと下りきったところにも街灯があり、思っていたよりも明るいと感じました。

私は、電話で同僚と話しながら歩いているんだし、きっと大丈夫!と決心しました。そして階段を下り始めたのです。

電話では、同僚が今日の仕事の内容についてお客様の文句を言っていました。私は、笑いながらそれを聞いていました。実際に階段を下り始めても、やはり思っていたより暗くはありません。

そのまま例のお墓のところまで下りて、そのお墓の横を通り過ぎようとした瞬間・・・

『・・・っ!!』

左耳につけていた携帯電話から、いえ、左耳のすぐそばで直接言われたようにハッキリと、お経が聞こえたんです。それは太くて低い男の声でした。

そ の瞬間、背中にドッと冷や汗が吹き出し、私は持っていた携帯電話を耳から離すと転がり落ちそうな勢いで階段を下りました。そして同僚の車まで必至に走りま した。その間も、後ろから何かが迫りくるような、恐ろしい圧力を感じながら走ったので、本当に生きた心地がしませんでした。

車に飛び乗った私に同僚は驚いていましたが、帰り道に事情を説明すると同僚まで真っ青になっていました。あの体験がいったいなんだったのか、霊感の無い私にはまったくわかりません。でも、あのお墓がある宅地には絶対に近寄らないようにしています。