30年程前の、私が小学生だった頃の話です。

当時鳥取に住んでいた私は、家族旅行の帰りか、祖父母の家からの帰りか忘れましたが、家族でバイパスみたいなところを車で通っていました。

夕方で少し薄暗くなってきた頃に、岡山県のとあるところで、父が突然言いました。


「ここらへんは腹切り峠って呼ばれてるらしいぞ。昔この辺にある腹切り岩という岩の上で武士が切腹していて、この辺りを腹切り峠って呼ぶようになったんだって。」
薄暗くなった今、こんなところ通るなんて…と薄気味悪い思いをしていました。

母と妹は、特に気にしている様子ではなかったのですが、私は幽霊とか心霊とかすごく苦手なので、少し嫌な思いをしていました。

何気なく車の外を見ていると、隣の車線を走っている車があったので、何気なく車の中を見てみると…無人のように見えました。

薄暗かったし、もしかしたら私の見間違いかもしれません。

でもその時は怖くて怖くて声も出ず、誰にも言わずに一人で冷や汗をかいていました。

さっき見たのは何だったんだろう…

そうこうするうちに、父の車がいつのまにかその車を追い越していました。

もう一回さっきの車を確認してみようと、後ろを振り返ると、さっきの車がありません。

バイパスなので一本道で、どこかに逸れる脇道なんかもありません。

びっくりして父に「お父さん、さっきいた車はどこに行ったの?さっきお父さん、横の車を追い越したよね!?」

父は、「そんな車あったか?」

え?どういうこと?さっき確かに車見たのに…

もう一度聞いてみました。「この道路って曲がるところとかある?」

「バイパスだからないよ」

30年前の会話なので、まるっきりこう言ったかどうかは忘れましたが、大体こんな感じの会話だったのは覚えています。

母と妹はその時どんなリアクションをしたのかは全く覚えていません。

こんな時間に、こんな曰く付きの薄気味悪い場所を通る車はほとんどいなかったと思います。

父はその車自体を見ていないのか、それとも運転に集中していて、他の車を見ていなかったのか、それ以上確認することもできませんでした。

怖がりのくせに、父に怖がりとからかわれるのが嫌だったのもあるし、自分一人が腹切り峠の話を気にしているみたいで、なんだか恥ずかしいような気持ちがあったからです。

それに運転中の父にうるさく質問して怒られるのも嫌だったし…

本当にあの時見たのは現実だったのか、恐怖心が見せたものだったのかはわかりません。

でも、霊感も全くない私が唯一経験した不思議な出来事です。