これは私が大学時代にお世話になっていた、ある男性の先輩の話です。
その先輩は中学、高校と生徒会に所属する真面目で勉強もできる、いわゆる「頼りになるお兄ちゃん」的存在の方でした。
私は彼と幼馴染というわけではないですが地元が同じで、同じ大学に通うよしみでとても可愛がってもらいました。
ある日二人でドライブに行く機会がありました。
天気の良い日だったので私は海を見に行こうと提案しましたが、私たちはどこに行くかを特に決めずに車に乗り込みました。
私たちの地元は富山県です。県内にも、また隣の石川県にも海岸は色々とあるのに、なぜか私たちは福井方面へ。
やってきたのは東尋坊でした。
賑やかな仲見世を抜けて進むと、いきなり海が見えてきました。
景勝と言われる東尋坊の絶壁に向かってゆっくりと歩を進めます。
真っ黒な岩場に張り付くように遊歩道が整備されていて、心もとないチェーンが柵の代わりに渡らせてあります。
ゴツゴツしてとても歩きにくく、踏み外すと転んでそのまま崖下に落っこちてしまいそうなスリル感がありました。
崖下をのぞき込める有名なポイントがあるのですが、私はギリギリまで近づいて、崖にぶつかって自分たちがいる所まで吹き上げてくる
豪快な水しぶきにきゃあきゃあと歓声を上げていました。
ふと隣に誰もいないことに気がついて振り返ると、一緒にいたはずの彼がずっと後ろの方で佇んでいました。
あれ?先輩って高所恐怖症だったっけ?と思い彼の元まで戻り理由を聞きました。
「お前を怖がらせるようなこと言うけど」ともったいぶった前置きをして、彼は続けました。
「俺、霊感あるんだよね。さっきから、めちゃくちゃ見えてるんだけど」
というではありませんか。

そうです。福井県の東尋坊は景勝地ではありますが、一方で自殺の名所と言われるところです。
その昔東尋坊というお坊さんが、修行を真面目にしないことから坊主仲間に疎まれ、ここから投げ落とされた、という悲劇があったそうで。

以来そのお坊さんが呼ぶのかどうかわかりませんが、身投げをする人が後を絶たないのだそうです。
確かに崖から下を覗き込むと不思議とすうっと波に吸い込まれるような感覚になります。
彼は以前にも東尋坊に来たことがあるそうなのですが、いつも海に向かって体が引っ張られそうになるというのです。
「そんなことなら来なかったのに!」と私は申し訳ないやら怖いやらで半分泣きそうになりました。
でも先輩はこう言いました。

「それがな、お前といると大丈夫みたいなんだ。どうやらお前は生のエネルギーが強いみたいだ」
聞くと、私が彼のそばにいると霊は私たちをよけて通り過ぎていくというのです。
日頃から霊が見えている彼は、私といるときには決まって霊が近づいてこないことに気がつき、たまたま海へ行く話になったので実験的に東尋坊に来てみたのだそうです。
「お前、すげえな」と感心されました。

私にそんな力があるなんて全然知りませんでした。
そうは言われても、そもそも私には霊感もなにもありませんし、なんにも感じません。
そう聞かされてもいまいち実感が湧きませんでした。
好奇心に負けて私は帰りの車の中で、先輩には霊がどんなふうに見えるのかと聞いてみました。
だいたい白くてぼうっとモヤがかかったような人型をしているそうで、性別も分かるそうです。
また、その人の思いが心に直接伝わって来るそうです。大抵の霊が、自分のことを分かって欲しくて、自分のことが見える人間にすがってくるらしいのです。

彼は子供の頃からある程度霊らしきものを見ることがあったそうですが、大学に入ってから見える頻度が増えてきたそうです。

ある日どうにも具合が悪くて、病院に行っても異常なしと診断されこのままでは日常生活に支障が出ると感じた彼は、知り合いの伝手で除霊で有名なお寺を探し出して視てもらったのだそうです。

そこのお坊さんが言うには彼は前世で大変位の高いお坊さんだったそうで、それが理由で霊感が強いのだと、
そして今まさにいくつもの霊が彼に憑りついているので一刻も早く除霊しなければならない、と言われ、除霊してもらったのだそうです。

それで一時的に体は軽くなったそうですが、気を許すと霊はすっと心に入ってくるそうです。そんな時には「こっちに来るな」「俺のところに来ても助けてやれないんだ」と霊に対して強く念じることをそのお坊さんにアドバイスされ、今も実行しているのだそうです。

あれから15年、今はもう彼とは疎遠になってしまいましたが、東尋坊に行くたびに先輩の霊の話を思い出します。

そして私も「ごめんね、助けてあげられないから、あっち行って」と念じます。