私がまだ幼稚園に通っていた頃の事です。
その頃、叔母が家の近くに住んでいて、叔母が大好きだった私は、母に連れられて叔母の住むアパートを訪れるのが楽しみでした。
叔母は独り暮らしではありませんでした。
男の子と一緒に暮らしていました。
彼は、ユウ君と名乗りました。私よりもちょっと年下の、身体の小さな男の子でした。
叔母の部屋を訪れると、必ず部屋の中からユウ君が駆け出して来て、
「お姉ちゃん!来てくれたんだね?ねえ、遊ぼう?外で遊ぼう?」
と、私に抱きついて来ます。私は、
「分かったよ。それなら、裏の空き地に行こうか」と言います。
二人で遊ぶ定番の場所なのです。
「あ、ほら、おやつ」
外に行こうとした私に、母や叔母が、チョコレート1枚とか、スナック菓子1袋とか持たせてくれます。うちはいつもこうなのです。母は私におやつの袋をひとつだけ渡します。
私は、それを小さな弟と妹と、3人で分けて食べるのです。
私は、空き地につくと、空き地の真ん中に倒れたままになっていた木に座ると、お菓子をキレイに2等分にします。
「はい、ユウ君、きっちり2等分に分けたからね」と言いながら、半分をユウ君に渡すと、ユウ君はニッコリと笑って、
「ありがとう、お姉ちゃん」
と、言って受け取り、二人でおやつを食べながら暗くなるまで遊びました。
ある日などは、叔母の部屋の一番奥の、押し入れから飛び出して、
「お姉ちゃん、いらっしゃい!」
と言いながら、私の手を取って、
「さあ、早く遊びに行こう!」と言うのです。
いくら、男の子がワンパクだからって、押し入れに閉じ込めるなんて、と思いました。
私が最後にユウ君を見た日は、いつもと違っていました。
叔母さんは、随分と暗い顔でテーブルについていました。
ユウ君は、部屋の片隅に小さい身体をなお小さくして、うずくまっていましたが、私を見つけたら、黙って走ってきて、私に抱きつきました。
私は、また、いつものように裏の空き地で遊ぼう、と言うと、頷きました。
母からチョコレートを1枚貰うと、二人で手を繋いで空き地まで走って行きました。
二人で楽しく遊びました。
気がつけば辺りは薄暗くなっていました。
「ユウ君、もう、帰ろう」と私が言うと、ユウ君は目にいっぱい涙を溜めて、
「お姉ちゃん、僕ね、行かなきゃいけないの。もう、お姉ちゃんと一緒に遊ぶ事が出来ないの。今日までありがとう」
と、言うんです。私は、
「大丈夫だよ。私はまたユウ君の所に遊びに行くから、今日は帰ろう」と、笑って言いながら、ユウ君の手を引いて、叔母さんの住む部屋まで帰りました。
母に連れられて、私が帰るとき、ユウ君は泣きながら、
「お姉ちゃん、バイバイ、バイバイ」と、手を振っていました。私も、
「うん、またね、バイバイ」と、手を振りました。
その後、叔母の部屋に何度か行きましたが、もう、2度とユウ君に会う事はありませんでした。
時は流れて、私は中学生になりました。
ある冬の日、私はこたつに寝転がりながら、母に、
「ねえお母さん、叔母さんが近くに住んでいた時に、一緒に暮らしていた、ユウ君って、何処に行っちゃったの?」
と、聞くと母は、
「は?ユウ君?誰その子。あんたはあの時気味の悪い一人遊びをしていたわよね」と言いました。私は、驚きながらも思い当たるふしがありました。どんなに寒い日も、ユウ君は薄手のパーカー姿でした。母や叔母さんがおやつを2人分くれた事はなく、1度、2人分くれと言ったら、
「そんなに食べたらお腹を壊す!」と叱られました。
よく考えたら、叔母さん達が、ユウ君に話しかけたりしたのを見た事がないのです。
どんなに、彼が部屋を走り回っても、大声をあげても、叱った事がない、どちらかと言うと、無視している。
ユウ君は生きてる子ではなかったのかなあ、と、漠然と思う事があります。
でも、彼は私の大事な友達です。