これは、私が大学に入学してすぐのころに体験した話です。

私は大学の後期日程の試験に合格して大学に入学したので、住む場所を決めるのが大変でした。
大学近くのいい物件はほとんど埋まっていて、ほとんど家賃の高い物件しか残っていなかったのです。

ですが、不動産会社に相談すると一つだけ、家賃がやけに安いアパートの部屋が見つかり、私はすぐにそのアパートに住むことに決めました。
安いだけあってボロボロのアパートかと覚悟して実物を見てみたのですが、意外にもきれいで新しそうな外観でした。
それに、近くを電車が通ってうるさいとか、駅やコンビニが遠いということもなく、どうして家賃が安いのか不思議なほどでした。

私はその部屋が気に入り、くつろいで暮らすようになりました。

そして、アパートに入居してから数週間が経ったときのことです。
私が夜中に友人と電話していると、突然、壁が「ドン」と鳴り響きました。
電話の声がうるさくて隣の住人が叩いたのかと思い、私は電話を切りました。

ですが、それから定期的に壁を乱暴に「ドン」と叩くような音がして、寝ている私は飛び起きました。

面倒くさがりな私は引っ越しの挨拶さえもせずに済ましてしまっていたのですが、そのこともあってよほど怒っているのに違いない、と私は仕方なくその夜は音を我慢して過ごしました。

ですが、「ドン」と壁を叩くような音は、その日から毎晩のように続きました。
電話もせず、テレビもつけておらず、完全に静かにしているにも関わらず、隣の部屋から大きな音が響いてくるのです。

最初は申し訳なさを感じていた私も、だんだんイライラしてきて、それと同時に怯えるようになりました。
いったいどんな人が隣に住んでいるんだろう。
直接文句を言って嫌がらせをやめさせたいけど、もしも変な人で逆上されたら恐ろしい。

そう思って我慢していたのですが、徐々に「ドン」という音は激しく、頻度も高くなっていきました。

ついに我慢できなくなった私は次の日に管理人さんへと相談しに行きました。
「隣の人が夜中に壁を叩いてきて、うるさくて眠れないんです。何とか管理人さんのほうからやめるように言ってくれないでしょうか?」

私がそう言うと、管理人さんはぎょっとしたような顔をしました。
そして、震える声でこう言ったんです。

「あなたの隣の部屋には誰も住んでいませんよ」

もちろん、私はそんなことは信じられませんでした。
隣の部屋に誰も住んでいないというなら、夜中に聞こえるあの「ドン」という音はいったい何だというのでしょう。

絶対に隣の部屋には誰も住んでないと言い張る管理人さんに、半信半疑の私は
「なら、実際に確かめさせてください」
と言って、管理人さんと二人で一緒に問題の隣の部屋へと行きました

管理人さんがどこかおどおどとした様子で、鍵を使って扉を開けると、確かに部屋の中には家具は一つも置かれておらず、人が住んでいるようにはとても思えませんでした。

ですが、私は開かれたドアの裏を見て、驚きました。
ドアの裏側にはよくわからない模様が書かれたお札が貼られていたのです。

それから、私が問い詰めると管理人さんは申し訳なさそうに事情を話してくれました。

「この部屋には以前母親と幼い子供が住んでいたんです。
ですが、母親はほとんど家へ帰らず、子供をほったらかしにしていました。
そのうち、育児放棄された子供が餓死しているのが発見され、母親は逮捕されました。
それからというもの別の人にこの部屋を貸すと、ドン、ドン、という音が聞こえるという苦情が出るようになったんです」

その話を聞いた私は、怖くなってすぐに別のアパートを探し、住んでいた部屋を引き払いました。

あのドン、ドン、という音は、死んだ子供の幽霊が、助けを求めて壁を叩き続けていたのでしょうか。
今となっては真相はわかりません。