私の祖父が亡くなった時の体験談です。

約5年前のお盆、私が28歳の時、母方の祖父が亡くなりました。享年83歳でしたので祖父は往生出来たのだと、家族の間で悲しいけれども納得した亡くなり方でした。
その時私は人生で初めて斎場という場所に行きました。
そこは、地元でも古い斎場でした。玄関を入ると、すぐに棺を置く台が3つありました。
左の台と真ん中の台の周辺には、すでに他のご遺族の方々が集まっていましたので、私の祖父の棺は一番右の台に用意されました。
棺を焼き場に入れるところまで見守り、斎場の方からは、焼き終わるまで控室で待機してくださいと指示を頂きました。

少しの間、控室にいたのですがお手洗いに行きたくなり、控室の入口を左に出て廊下の奥のお手洗いに行きました。
お手洗には誰もおらず、しぃんとしていました。まだ日中というのに薄暗いお手洗で用を済ませましたが、心さみしくなり急いで手を洗いお手洗を出ました。
お手洗の出口から見た長い廊下は、混沌とした空気で、そこから一番奥にある先程の焼き場では他の遺族の方々もしくしくと泣いている姿が見えます。
中には小さい子供もいて、親族が亡くなった事がまだ分からない様子でお母さんにしがみついていました。
ふと、私の場合は祖父だったから良かったものの、これが若い人や自分の子供の死だとしたら本当につらいだろうなぁ・・と思いました。
その瞬間、背中がぞくぞくっとした気がして、少し怖くなり早足で控室に戻りました。

戻ってからはなぜか気持ちが落ち着かず、そわそわしながら母が入れてくれた煎茶を家族で飲み、斎場の人から呼ばれるまで待機していました。
約1時間半後、次の準備が整いましたと呼ばれましたので、私達は控室から出て次の指示に従いました。

斎場の方のおかげで、その日の日程全てが滞りなく終了し夕方近くに家に戻る事が出来ました。
家に帰ったとたん、気持ちが緩んだのか一気に疲れを感じ、夕飯まで横になることにしました。
2階の自分の部屋に行き、着替えようとした時、部屋の一角に目が行きました。
そこは、衣替えの為に春物の洋服を積んで寄せていたのですが、夕日がその洋服にあたり影になっている部分があったのですが、その影がゆらゆら揺れているのです。

初めは、風があたって洋服の山が揺れているのかと思っていましたが、エアコンもついておらず窓も空いてませんでしたので風があたるわけがありません。
私は不安を覚えながら、着替えを終えベッドに横になったのですが影はまだ揺れています。私はだんだんと怖くなりましたが、もっと良く見てみようと上体を起こしてみました。

すると、影から手の様なものが急に伸びて、私の腕につかみかかってきました。
私は「きゃー!」と悲鳴を上げて、飛び上がり急いで母がいるリビングへ戻りました。
母に今の事を話すと、母は帰ってきてからずっと嫌な気配がしてると思っていたと話してくれました。
また、斎場ではあまり余計な事を考えてはいけないと昔の人から聞いた事があるとも言っていました。
もしかしたら斎場から何か連れてきたのかもしれないと、母は心配していました。
「何か」を連れてきたのだとしたら、それは生きた人などではなく、そういう世界にいるものだということを母の話を聞いて私は確信しました。

その「何か」の気配は、夜になり部屋に一度戻ったら消えていました。影も揺れる事はなかったので、不安を抱きつつ一晩を明かしました。

朝になり、母と朝食をとっていると、母が「実は・・」と話し始めました。
私が寝た後、母はお風呂に入ったのですが、脱衣場にいる時、どんっと音がしたそうです。
ドアを開けてみると、私のシャンプーやボディーシャンプーのボトルが倒れていました。
それを直し、ドアを閉めてお風呂に入る準準備をして、再びドアを開けてお風呂に入いりました。
シャワーを浴びていると、またどんっと音がして、同じボトルが倒れて来ました。
置き場所を変えても倒れてきたので、怖くなり早々にお風呂を切り上げたそうです。更には母が寝付くまで、1階では何かがはじけるような音が鳴っていたそうです。

母が感じた気配は、おそらく私と同じくらいの女の子の気配で、私の持ちものが倒れるのも何か言いたい事があったのかもしれないとのことでした。
やはり斎場で「何か」を連れてきてしまったのでしょうか。死というものをこんなに身近に感じたことはありませんでした。

みなさんもどうか斎場という場所では、余計な考え事をしないようご注意ください。