私は幼いころから心霊体験のような経験が何度かあります。
頭に突然映像が浮かび、俗に言う「見える」状態でだった事がありました。幼いころはそれは自分の想像力や妄想に過ぎず、絵本やテレビの見すぎだと思っていました。
しかし、大人になってからもそれは無くなることはなく、頭に突然映像が浮かぶ事がありました。
私が7年前から住んでいるアパートは、町内のごみ収集場所を利用してごみを捨てるのですが、町内の真ん中ということで、ごみ収集場所がアパートか ら10mほど離れているところにありました。週2回、家庭ごみを収集場所に捨てる時、必ずある電柱の前を通るのですがその電柱の前には、「この世」のもの ではない女が立っているのです。
女は長い黒い髪をたらし、うつむき加減でずっと立っていました。
深夜にごみを捨てる事が多い私は、頭に突然女の映像が浮かびその女のことが「見える」状態になっている事が怖く、女の事は無視していました。
しかし、その女は私を目で追い、私が通りすぎると顔を私の方に向け部屋に戻るまでこちらを見ている事もありました。

今までの経験から、そういう場合は無視することが一番だと思っていましたので、この時も電柱の前を通る度に女の事は無視していました。

そして、今から約3年ほど前、私が30歳の頃のある梅雨の時期でした。しとしとと音もなく雨が日中から降り続いていました。
その日は、夜勤でしたので部屋で出勤の準備をしていました。着替え終わり、夜食を持って、靴を履いて玄関を出ました。

ドアに鍵をかけようとキーを取りだした時、自分の背後に誰かが立っている気配がしたのです。
アパートの部屋のドアと手すりの間は人が一人入る程しかなく、荷物を持って鍵をかけようとしている私がいるだけで人間がもう一人入れる隙間などありません。

しかし、私の背後には誰かが立っています。それは、私よりも背が高い痩せ形の女の人。黒く長い髪、トレンチコートのようなものを着て、目だけが私を見下げています。
そう、あの電柱の前に立っていた女でした。

私は震えが止まらず、その場から動けなくなりました。
それでも力を振り絞ってアパートのドアを開け、また部屋に戻りました。女の気配から解放された私は、大きく息を吸って、ゆっくり吐き出し、気持ちを落ち着かせようとしました。

しかし、先程の光景を思い出すと怖くて仕方がありません。会社に行かなければならないのですが、ドアの向こうにはまだ女の気配がしています。
私は勇気を振りしぼって勢いよくドアを出て、震える手で鍵をかけ、転げるように階段を下りて車に乗り込みました。

女を振り切る事が出来た!と思い、ふうぅっとため息をついたのもつかの間、女がドアの前から離れゆっくりと階段を下りてくるではありませんか。
車のバックミラーから女の細い足が見えています。
やばい、追いかけてくる!私は今までに感じた事のない冷たい恐怖に襲われました。
ここから離れなければと必死で車を出しました。無事、事故もなく職場に到着し、その日の仕事は順調に終わる事が出来ました。

その数日後、その地域は梅雨明けをしてじめじめした時期は終わって、暑い夏がやってきました。

あ の女は、以前この辺に住んでいていつも誰かの帰りを待っていたのかもしれないと想像していますが、そうだとしたら今も誰かを待っていてそこにいるのだとし たら、その誰かに自分の存在に気付いてほしかったのかもしれません。しかし、私がいつも「見えて」いるのに無視をして気づかないふりをしてる事が気に入ら なかったのかもしれません。

あの女は、その日以降私のアパートのドアの前に来る事はありませんが、今も時々あの電柱の前に立っているのを見かけます。