今から2年半前の話です。友人のCさんは私の高校と職場の先輩です。30年以上を付き合いです。


Cさんはご主人を亡くして13日目に脳出血で倒れ救急搬送されました。娘の高校の理事会に出かける時、某大学病院の救命救急の方から電話があり「Cさんが救急搬送されて貴女を呼んでいるので来てください。


命に別状はないのですが症状は電話ではお伝えできません」と連絡が入ってきたのです。

Cさん夫婦は子供がいなく、お互い一人っ子同士でご主人のご両親は他界されており、Cさんのご両親は歩くのも大変なご高齢なのです。私は高校の理事会で役員説明だけをして車で駆けつけました。


救急救命でベットにくくりつけられているCさんは興奮していて麻痺もあり何をしゃべっているのかわかりませでした。入院手続きをして家から必要な物を持ってきて欲しいとの事でした。家に行くとご主人の遺骨が仮の祭壇に置かれ大きなお花が飾られていました。


まだご主人が亡くなられて49日も経っていないのです。


私はおちゃめなご主人とも面識があります。家に入ってからずっとご主人が「申し訳ない」とか「世話かけてすまないな」と思っていいる様に感じました。すぐさまお線香をあげて指定の物を探しました。


タオルや洗面道具、カーディガン等 よそ様のお宅で物を探すのは難しい筈なのですが「EさんEさん(ご主人の名前です) カーディガンこの辺りにあるはずなんですがどこですか?」って話しながら探すと見つかりました。広いお宅でシーンとして何か話していないと怖くてあたかもご主人が存在するかの様に話し続けました。持っていく物は不思議な事に全て見つかりました。


その後何回もご自宅に行ってはご主人の「すまないな」という気持ちを感じました。


そのたびお線香をあげて色々話しをしながら必要な物を探しをしました。帰る時は「またきますね」と挨拶しました。49日前にご主人のお母さんの親戚が納骨の為にやって来て遺骨を持って行ってくれました。それで少しご主人の気配が薄くなりました。遺影があるので猶更そう思うのかもしれません。


奥さんのCさんは救命救急から一般病棟に移り暫くしてリハビリ病院に転院しました。リハビリ病院は6か月で退院して介護施設に移りました。今も介護施設に身を寄せています。


脳出血で運びこまれて11か月後の年末、初めて私の車にCさんを乗せてご自宅に向かいました。道々私が「義母が使っていた車に貼る 車椅子マークのシールない?物持ちがいいから玄関の下駄箱に置いてない?」と尋ねたのです。「もう昔の事だから車椅子マークなんかないわよ」とCさん。


車椅子マークがあれば何かと便利なのです。ご自宅に着いて支えながら家の中にCさんを入れて自分の車を行ったり来たりした時の事です。駐車場に停めてあるご主人の車の後ろに所々切れた車椅子マークが落ちていたのです。鳥肌が立ちました。それを持ってCさんに見せました。それはご主人が晩年運転に自信がなく自分の車に付けていたものだそうです。


私は数か月前、ご主人の車の中の物を整理したのです。バッテリーはあがり車検も切れて動かせなくそれでも税金はかかるので処分する事になったからです。その時は車椅子マークが付いたのか落ちていたのかも覚えていません。車椅子マークを私に渡す為に落ちていたかの様です。駐車場は屋根だけのカーポート。海に近いご自宅で風が強い場所なのです。


車に乗らなくなってから3年近くも車椅子マークはそこにあったのです。何だか涙が出てきました。「これからもアイツをよろしくな」って言われた様です。人の思いは暫くは残るのではないかと思います。あれからご主人の気配は薄れて「すまないな」は感じません。


Cさんは麻痺があるのでご自宅で生活するのは無理で家は処分する方向で動いています。年内には更地になる予定だそうです。

今でもウチの車には年期の入った車椅子マークが貼ってあります。